或資本家の論理

「芸術家の芸術を売るのも、わたしの(かに)鑵詰(かんづ)めを売るのも、格別変りのある筈はない。しかし芸術家は芸術と言えば、天下の宝のように思っている。ああ言う芸術家の(ひそ)みに(なら)えば、わたしも亦一鑵六十銭の蟹の鑵詰めを自慢しなければならぬ。不肖行年六十一、まだ一度も芸術家のように莫迦莫迦(ばかばか)しい己惚(うぬぼ)れを起したことはない。」



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