仏陀

 悉達多(しったるた)は王城を忍び出た後六年の間苦行した。六年の間苦行した所以(ゆえん)勿論(もちろん)王城の生活の豪奢(ごうしゃ)を極めていた(たた)りであろう。その証拠にはナザレの大工の子は、四十日の断食しかしなかったようである。

   又

 悉達多は車匿(しゃのく)馬轡(ばひ)()らせ、(ひそ)かに王城を後ろにした。が、彼の思弁癖は(しばしば)彼をメランコリアに沈ましめたと云うことである。すると王城を忍び出た後、ほっと一息ついたものは実際将来の釈迦無二仏(しゃかむにぶつ)だったか、それとも彼の妻の耶輸陀羅(やすだら)だったか、容易に断定は出来ないかも知れない。

   又

 悉達多は六年の苦行の後、菩提樹(ぼだいじゅ)下に正覚(しょうがく)に達した。彼の成道の伝説は如何に物質の精神を支配するかを語るものである。彼はまず水浴している。それから乳糜(にゅうび)を食している。最後に難陀婆羅(なんだばら)と伝えられる牧牛の少女と話している。



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