Blanqui の夢

 宇宙の大は無限である。が、宇宙を造るものは六十幾つかの元素である。是等(これら)の元素の結合は如何に多数を極めたとしても、畢竟(ひっきょう)有限を脱することは出来ない。すると是等の元素から無限大の宇宙を造る為には、あらゆる結合を試みる外にも、その又あらゆる結合を無限に反覆して行かなければならぬ。して見れば我我の棲息(せいそく)する地球も、――是等の結合の一つたる地球も太陽系中の一惑星に限らず、無限に存在している(はず)である。この地球上のナポレオンはマレンゴオの戦に大勝を博した。が、茫々(ぼうぼう)たる大虚に浮んだ他の地球上のナポレオンは同じマレンゴオの戦に大敗を(こうむ)っているかも知れない。……
 これは六十七歳のブランキの夢みた宇宙観である。議論の是非は問う所ではない。(ただ)ブランキは牢獄(ろうごく)の中にこう云う夢をペンにした時、あらゆる革命に絶望していた。このことだけは今日もなお何か我我の心の底へ()み渡る寂しさを蓄えている。夢は既に地上から去った。我我も慰めを求める為には何万億(マイル)の天上へ、――宇宙の夜に懸った第二の地球へ輝かしい夢を移さなければならぬ。



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