青空文庫版 | 草稿 |
これは友人S・Mのわたしに話した言葉である。 弁証法の功績。――所詮何ものも莫迦げていると云う結論に到達せしめたこと。 少女。――どこまで行っても清冽な浅瀬。 早教育。――ふむ、それも結構だ。まだ幼稚園にいるうちに智慧の悲しみを知ることには責任を持つことにも当らないからね。 追憶。――地平線の遠い風景画。ちゃんと仕上げもかかっている。 女。――メリイ・ストオプス夫人によれば女は少くとも二週間に一度、夫に情欲を感ずるほど貞節に出来ているものらしい。 年少時代。――年少時代の憂欝は全宇宙に対する驕慢である。 艱難汝を玉にす。――艱難汝を玉にするとすれば、日常生活に、思慮深い男は到底玉になれない筈である。 我等如何に生くべき乎。――未知の世界を少し残して置くこと。 | これは友人のS・Mの僕に話した言葉である。 弁証法の功績――所詮何ものも莫迦げていると云う結論に到達せしめたこと。 少女――どこまで行っても清冽な浅瀬。 早教育――ふむ、智慧の悲しみを知ることにも責任を持つことにも当らないからね。 自己――結局は自己にかえることかね。その醜い裸体の自己と向かい合うのも一興だろうさ。[サイト制作者注:ここで切れていることを示す鉤記号あり。] (出典)(株)岩波書店発行(1997年)・芥川龍之介全集・第21巻・428頁 サイト制作者注:仮名遣いを新仮名遣いにし、青空文庫版を参考にして一部に振り仮名を付けました。 |
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