虚偽

 わたしは或つきを知っていた。彼女は誰よりも幸福だった。が、余りに嘘の巧みだった為にほんとうのことを話している時さえ嘘をついているとしか思われなかった。それだけは確かに誰の目にも彼女の悲劇に違いなかった。

   又

 わたしも亦あらゆる芸術家のように寧ろ嘘には巧みだった。が、いつも彼女には一籌を輸する外はなかった。彼女は実に去年の嘘をも五分前の嘘のように覚えていた。

   又

 わたしは不幸にも知っている。時には嘘に依る外は語られぬ真実もあることを。



次(諸君) 目次 モード変更